車も持たない、海外にも行かない、消費欲もない……とメディアではよく言われていますが、果たしてそれは本当なのでしょうか。「事実は欲望がないのではなくて、上の世代の人たちが“欲望”と思っているものが、若い人たちのそれとは違っている」と話すのは、ベストセラー小説『野ブタ。をプロデュース』作家であり、今年30歳を迎えた白岩玄さん。
AKB48、婚活、アニメ「ONE PIECE」、W杯、半沢直樹、ミスチル……と、現代の若者が“ハマる”モノ・コトには、共通するツボがあると断言します。
「最初に欠落があり、そこに何かがハマることでコミュニケーションは起こっている」――。この連載では、「今、人気&話題になっているものが、なぜ支持されているのか」について、30歳小説家視点から解析していきます。
【連載】
第1回 「女子」から「女性」へ〜AKB大島優子卒業に見る、“大人”であること〜
第2回 愛情は“型”の中にある 〜『笑っていいとも!』に見る、マンネリの中にある愛〜
第3回 「ウソ」と「仮装」はどちらがモテるか? 〜エイプリルフールに見る、モテないなら参加しないという空気〜
第4回 「自分」を見つけた人の強さ 〜夏目三久アナの人気に見る、「自分になること」に対する憧れ〜
白岩玄(小説家)
“女子集団”の中で際立つ“女性”らしさ
大島優子がAKB48を卒業する。実際の活動は6月2日まで続くそうだが、一連の“卒業”報道を見ていると、本当にいなくなるんだなと実感が湧いてきた。
大島優子の魅力を一口で言うのなら、それは「女性であること」だと思う。もちろん性別の意味ではなくて、彼女はAKBの活動を通して「女子から女性になった」人なのだ。同じく元AKBの前田敦子も、やはりその道を通った人だ。女子が集まっている印象が強いAKBだからこそ、大島優子や前田敦子の女性的な面は際立っているように見える。
『女子』と『女性』はどう違うのか? 結論から言えば、これは「背負っているものの大きさが違う」のだと思う。たとえば大人の女性が開く女子会は、普段女性として自分たちが背負っているものを降ろすために開かれているふしがある。もし女子会が「女性会」という名前の集まりだったら、楽な気持ちでは参加できない。なんとなく大人の態度を持って挑まなければいけない気がしてしまうだろう。
また、女子と女性をめぐる問題では、「女子アナ」と「女性アナウンサー」の違いもよく言われる。あれはおそらくアイドル的な人気とは関係なく着実に力をつけていくと、あるときから女性アナウンサーと呼ばれるようになるのだと思う。局アナという「肩書きによって求められる」のではなく、「肩書きを背負える」ようになったら女性アナウンサーと言った感じか。己の存在だけで勝負しているフリーの女性アナウンサーが女子アナと呼ばれないのもこれと同じ理由だろう。
今の世の中には、この「女子」と「女性」のあいだを行き来している女の人が多い気がする。自立した一人の女性としてやっていきたい気持ちはやまやまだけど、それだけだとつらいことも多いから、ときどきは荷を降ろして女子になる。きっと大島優子や前田敦子も、仕事の面以外では女子として他人に甘えたりもしているんだろう。でもいつまでも女子のままでは、他人から認められる人には決してならない。みんなそれをわかっているから、女子になったり女性になったりを繰り返して、どうにかバランスをとっているのだ。
大島優子は仕事の面でちゃんとした女性になったから、みんなから一目を置かれている。彼女は「女子」が「女性」になるための努力をして、AKBの中で「大人の女」になったのだ。女優としてはどうなんだとか、これからやっていけるのかという意地悪な声もあるだろうが、たぶんそういう見方をする人たちも、メディアで彼女を見ていて感じる「一本筋が通った」部分は否定できないのではないだろうか。
女の人の話ばかりしてきたが、男の人にもやはり「男子」と「男性」の違いは存在する。僕自身は大島優子を見ていると、ときどき引け目を感じてしまう。与えられた肩書きを背負い、他の人の居場所を作れるようになることが大人になることだとするならば、自分はまだまだそれができていないように思えるからだ。
若者攻略本。
AKB48、婚活、アニメ「ONE PIECE」、W杯、半沢直樹……若者が“ハマる”モノ・コトには、共通するツボがあった!ベストセラー小説『野ブタ。をプロデュース』で、若者のリアルな心理を描いた30歳作家が、“欲しがらない世代”の欲望を解説します。
『R30の欲望スイッチ~欲しがらない若者の、本当の欲望~』
3月28日発売!
(白岩玄/著、1600円+税、宣伝会議) ご購入はこちら
1983年、京都市生まれ。高校卒業後、イギリスに留学。
大阪デザイナー専門学校グラフィックデザイン学科卒業。
2004年『野ブタ。をプロデュース』で第41回文藝賞を受賞し、デビュー。
05年、同作は芥川賞候補になるとともに、日本テレビでテレビドラマ化され、
70万部を超えるベストセラーとなった。2009年『空に唄う』、2012年『愛について』を発表。
今年3月28日、初の実用書となる『R30世代の欲望スイッチ~欲しがらない若者の、本当の欲望』を
発表した。
【連載】
第1回 「女子」から「女性」へ〜AKB大島優子卒業に見る、“大人”であること〜
第2回 愛情は“型”の中にある 〜『笑っていいとも!』に見る、マンネリの中にある愛〜
第3回 「ウソ」と「仮装」はどちらがモテるか? 〜エイプリルフールに見る、モテないなら参加しないという空気〜
第4回 「自分」を見つけた人の強さ 〜夏目三久アナの人気に見る、「自分になること」に対する憧れ〜